2008年3月のノートから
昨年、手術をした母。
集中治療室を出て、一般の病室に戻る。
「たまきちゃん…」と呼ぶ声。
「お母さん、どこか痛むの?」と、あわててベッドに駆け寄る私。
母は言った。
「干支を数えとらいけど(数えているが)、
どうしても一匹思い出せんがいちゃ(思い出せないんだけど)」
「はい? 干支?」
二人で数える内に、足りなかったのは“蛇”と判明。
こちらの心配をよそに、のん気な母。
(以下、方言は標準語に変換済み)
7時間あまりの大手術を終えた母。
「たまきちゃん…」と呼ぶ声。
「お母さん、どこか苦しいの?」と、またまた駆け寄る私。
母は言った。
「なんか頭がおかしくなったみたい」
「えっ、なんで?」
「目を開けていても、夢みたいなものが見える」
「えっ、どういうこと?」
母が言うには、眠っているわけでもないのに、
ハリーポッターの映画に出て来るような古い本が目の前に現われて、そこに映像が映るというのだ。
「指で触れるとページがめくれて、まるで映画を見ているみたい」と。
「どんなものが見えるの?」と聞いた。
母は鮮明に覚えているらしく、
「前に入院したときにすごく世話になった看護婦さんがいるんだけど、仕事で失敗してね、
かわいそうに病院の会議にかけられて、結局、アフリカのケニアに飛ばされてしまった」
と詳しく説明した。
「えっ、映像だけじゃなくて、ストーリーもの? しかも何でケニア?」
「なんでかね。でも、“ここもけっこう良い所です”って後になって手紙が来たよ」
で、大笑いになった。
「あわわっ、切ったお腹が開いちゃうよ、お母さん!」
翌日、病室に行くと、術後の様子を尋ねるより先に聞いた。
「お母さん、何か見えた?」
すると母は、
「12月からはじまるヨン様のドラマを、もう3話まで見てしまった」
と、期待を裏切らない答え。
「えっ、まだはじまってもいないのに?」
「うん、けっこうおもしろかったよ」
で、また大笑いになった。
体から4本の管がのびている。その先には透明な袋に入った液体。
「このどれかが怪しいよね」
それから、ひとつはずれるごとに聞いた。
「まだ見える?」
にわか映画の原因は鎮痛剤。
ティモシーリアリーも驚きの幻覚体験(?)をした母だが、
人の体って、いったい???
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